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伝承昔話(でんしょうむかしばなし)

狸森(むじなもり)

須賀川市
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    須賀川市(すかがわし)
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    伝承昔話(でんしょうむかしばなし)

紹介説明(しょうかいせつめい)

 須賀川市狸森(むじなもり)というところは、昔は杉森村(すぎもりむら)といわれていた。
 その村の宗徳寺(そうとくじ)というお寺に、託善和尚(たくぜんおしょう)というお坊(ぼう)さんがいた。かしこく、りっぱなお坊さんで、村人からもたいそうしたわれていたという。
 ある年の四月、会津若松の天寧寺(てんねいじ)で、ほうぼうから百人あまりのお坊さんが集まって修行(しゅぎょう)をする江湖会(ごうこえ)という大法要(だいほうよう)【仏教(ぶっきょう)の行事】が行われた。
 託善はすぐれたお坊さんだったので、そこにまねかれ、中心になってはたらくことになった。託善は、昼も夜もなく働き、会の進行はもちろん、そのまかない【食事を作ること】にまで、とても人間わざとは思えないほどのうで前をふるって、人々をおどろかせた。
 やがて十数日がすぎ、さすがの託善もすっかりつかれきってしまった。そこで、寺の一室で休んだが、死んだ人のようにねむり続け、一日中起きてこなかった。日ごろ親しかった目の見えないお坊さんは、心配になり、託善のねている部屋へ行ってみた。
「託善さん、託善さん。いったいどうしたのです。まだ起きられないのですか。」
 いくらよんでも、いっこうに託善の起きる気配がない。
「はて、いったいどうしたというのだろう。」
 ふしぎに思ったお坊さんは、手さぐりをして、託善和尚の体にふれた。と、どうだろう。それは人間ではなく、けもののように毛が生えていて、おまけにしっぽまでついているではないか。坊さんは、すっかりおどろいて、

「人と見せ 人にはあらで 獣(けもの)かや 親しい友の 姿(すがた)変わりて」
【人間だと思わせていて、じつは人間ではなくてけものだったというのだろうか。親しい友のすがたが変わってしまった。】

という歌を一首、ふすまに書きのこして立ち去った。そして、そのことを外のお坊さんたちに話した。けれども、「そんなはずはない。」と、だれ一人として信じるものはなかった。
 いっぽう、まもなく目をさました託善和尚は、ふすまに書いてある歌を見ると、
「ああ、ついに見やぶられてしまったか。それでは仕方がない。」とつぶやいた。そして、身を清め、法衣(ほうえ)【お坊さんの着物】をきちんと着ると、修行をしていたお坊さん全員を本堂(ほんどう)によび集め、しずかに話しはじめた。
 たくさんのお坊さんたちがならんですわっている前で、託善和尚は、しずかに話しはじめた。
「こうなったからには、何をかくしましょう。実は、私は杉森(すぎもり)に住んでいた狸(むじな)【たぬき】なのです。そもそも私が化けていたのは、仏様(ほとけさま)にお仕えして、ご利益(りやく)をえたかったからです。きびしい修行をし、人なみのお坊さんになったつもりでしたが、正体を見やぶられてしまってはもはやこれまでです。」
 それでも話を聞いていたお坊さんたちは、信じられないという顔つきだった。それというのも、託善がとても頭のいい、何でも人一倍できるお坊さんだったからである。
「では、もうお別れです。お別れに、お釈迦様(しゃかさま)がおなくなりになられた時のご様子をごらんに入れましょう。それで、みなさまをだまし続けたことのおわびにしていただきたいと思います。どうぞ、おゆるしください。」
 そういって託善は仏だんにかけ上がり、重々しい口調(くちょう)でお経(きょう)をとなえだした。すると、ふしぎなことに、大きくてりっぱなお堂がたちまち消えてしまった。そのうえ、辺りがすっかり暗くなり、まるで夜のようになった。空には丸い月がかがやき、地には木の葉をすかして月の光がゆれている。大きな沙羅双樹(さらそうじゅ)【お釈迦様がなくなられた時、四方に二本ずつならんで生えていたといわれる木】の下には、寝台(しんだい)に横たわり、弟子たちに見守られながら息を引きとったばかりのお釈迦様のすがたがあらわれたのだ。そこにいたお坊さんたちみんなが、思わず手を合わせておがんだ。
 その時、とつぜん、しずけさをやぶって、「キャッ!」と、するどいさけび声と同時に、大きな黒いものが、託善和尚の上にドサッと音をたてて落ちてきた。見ると、金色の毛がふさふさと生えた大きな狸が一匹(ぴき)、息たえて横たわっていた。そして、託善の姿は消えてしまっていた。

 託善和尚の経文(きょうもん)、法衣、仏具(ぶつぐ)【お坊さんの使う道具】などが宗徳寺に送られてきたので、村人たちは、これを寺の向かいの山にうずめた。その山を経塚山(きょうづかやま)といい、山頂(さんちょう)には、託善和尚の碑(ひ)がたっている。また、そのころから「狸の和尚さん」をしのんで、村の名を杉森から狸森(むじなもり)とあらためてよぶようになったという。今からおよそ500年ほど昔の話である。

資料・他(しりょう・ほか)

『福島の伝説』 福島県国語教育研究会編集

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その他(そのほか)

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須賀川市

狸森

経塚山の山頂に詫善和尚の持物が埋められているという

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