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伝承昔話(でんしょうむかしばなし)

弘法ワラビ(こうぼうわらび)

石川町
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    石川町(いしかわまち)
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    伝承昔話(でんしょうむかしばなし)

紹介説明(しょうかいせつめい)

 遠い遠い昔のことである。今この辺りは石川郡石川町になっているが、その昔は山橋村(やまはしむら)、もっとその先は南山形村(みなみやまがたむら)といって、とてもさびしいところであった。そして、この南山形の地に羽貫田(はぬきた)という集落があった。いまでは人の住んでいる家が三十軒(けん)ほど建っているが、遠い昔はたった一軒しかなかったという。
 ある日のことである。この山おくの草深い一軒家(いっけんや)に、一人のたびのお坊(ぼう)さんが、とぼとぼと托鉢(たくはつ)【お坊さんがお経(きょう)をあげながら家々を回り、お米やお金をお願いする修行(しゅぎょう)】に立ちよられた。
 よれよれになった衣(ころも)を身にまとっているのを見ると、ずっとずっと長い間旅を続けてきたように思われた。
 また、すっぽりと深くかぶったかさの中の顔立ちは、やさしく見えるとともに、整っていてキリリと引きしまり、ふつうの人ではないように思われた。
 お坊さんの立ちよられたこの一軒家には、おばあさんが一人いあわせた。
 山道を歩いてきたためだろうか、お坊さんはのどがカラカラにかわききっていたので、
「お水を一ぱい、恵(めぐ)んでいただけませんか。」と、このおばあさんにたのんだ。おばあさんはこころよく答え、「はいはい、すぐにさし上げますから、ちょっとお待ちください。」といいながら奥(おく)に入り、おわんに水をくんできてさし出した。おわんを手にしたお坊さんは、いかにもおいしそうに、ゴクゴクと全部飲みほした。はらわたにしみとおるような冷たい水だった。
 それからおばあさんは、お経をあげていただいたお礼にと、わずかばかりのお金を紙につつみお坊さんにさし上げた。お坊さんはていねいにお礼を言いながら、それをうやうやしくいただいた。
 ちょうどお昼にさしかかっていたので、親切そうなおばあさんは、
「何もありませんが、お昼ごはんをおあがりになってください。」といってご飯とみそ汁を、おぼんにのせてお坊さんにさし出し、さらに言葉を続け、
「もうしわけないのですが、おかずは何もございません。ここに今朝、山に行ってとってきたワラビがあるのですが、まだアクぬきしておりませんので、さしあげることができません。どうぞおゆるしください。」といった。でもお坊さんは、何はなくとも、おばあさんの心のこもったおもてなしに、心を動かされ、何度も何度もお礼を言った。やがて、
「本当にありがとうございました。ごちそうになりました。」と申されると、すっと立ち上がり、しばらく目をつぶり何かをいのっている様子だった。そして、
「おばあさんや、これからあの山に毎年出るワラビは、アクぬきをしないでも食べられるようになりますよ。」と山を指し、声高らかにいうと、しずかにそこを立ち去っていった。やがて雪がとけて、春になり、おばあさんがその山に行ってワラビを取ってきたところ、そのワラビはお坊さんの言ったとおり、アクぬきをしないでも食べられたという。
 あのお坊さんは、弘法大師(こうぼうだいし)だったのではないかというので、いつしか、この地方の人たちは、このワラビの取れる山を弘法山(こうぼうやま)とよび、また、ここで取れるワラビを弘法(こうぼう)わらびというようになった。 
 今でもワラビの季節(きせつ)になると、遠い所や近い所から、この弘法ワラビを取りに来る人が後をたたないということだ。

資料・他(しりょう・ほか)

『福島の伝説』 福島県国語教育研究会編集

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弘法ワラビ

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